好きな人

「なあ、山本。ここでいいのかな。」

随分古い建物だ。2階建てで、壁一面にツタが這っており、その隙間から窓がわずかに見える。

2階の窓は使っていないのかもしれないな。

今日、ここに来たのは、絵の個展をここで開いてはどうかという話があったからだ。突然の電話だった。

「もしもし、あなた、瀬山さん?絵描きの?」

「はい、そうですが。あなたは?」

「私は、水晶祥子。占い師よ。」

「はあ で、その占い師さんが、なんの御用でしょう?」

「あなたの絵、素敵だわ。私、とても気に入ったの。それで、私の知り合いが所有している建物で古典を開かない?」

この話を受けて、今日、助手の山本とこの場所に来たのだ。

個展の話は興味を引かれた。私は画家といっても駆け出しで、まだ、知名度も低い。

助手の山本の給料を払うにも事欠くことが多い。

個展を開くにあたってはかなりの報酬が支払われる。

ありがたい話だ。

しかし、この建物は怪しい。人の気配が全くない。手入れされている様子もない。

インターフォンを鳴らす。

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